ずいぶん前に
♪職業選択の自由〜はははん♪
なんてCMがありました。いつ頃のものだったかは定かではありませんが…
筆者はエンジニアを生業としておりますが、さまざまな業界のエンジニアの中でも
かなりの激務となる業界に身を置いております。「突貫工事」という言葉に代表される
ように、寝ず食わずの仕事が美徳とされる業界であります。
とはいっても筆者は設計職でしたので工事をするわけではありません。
建物を造る計画というのは非常に長いスパンのものでして、企画から着工まで5年なんて
ザラです。建て主というのは早く造って商売をしたいわけですから、往々にして様々な
段階で急ぎます。
その中で、工事自体は本当に「造る」のですから工期を縮めるといっても限度が
あります。そこで縮めることができるのは「設計」に要する期間なわけです。
さらにこの辺りがあまり知られていないことですが、「設計」というのは設計図を
作成して終わりではないのです。着工すると工事をする前に施工図というものを
作成します。これは「工事用の図面」です。この施工図が設計意図を理解して作成
されているかをチェックしたり、調整をしたりすることも設計の業務です。
そして施工図どおりに工事が進んでいるかをチェックするのも設計のお仕事です。
というわけで建て主の要望をくみ取って設計図を造り、建物ができて稼働するまで
設計さんは一つの建物に関わり続けます(もちろん転勤などで途中交代することも
ありますが)。
恐らく他の業界の設計さんも同じような関わり方をするのではないでしょうか。
建物というのは寿命が長い製品です。構造体などは60年から100年はもつと言われて
おります。ただし建物は「骨格」だけでできているわけではありません。「神経や血管」に相当する部分もあります。電気が点いたりエアコンが効いていたり、意識しなければ
気付かない部分がたくさんあります。「神経や血管」は「骨格」ほど長持ちはせず、
15年から20年くらいで寿命が来ますので、「改修工事」つまりリニューアルというのも
人知れず行われています。このリニューアルをするためにまた設計さんが活躍します。
先述のとおり建物は閉鎖してしまうと商売ができなくなりますので、「生かしたまま」
リニューアルをすることもあり、リニューアル計画をたてるのも設計さんの仕事です。
ここが大量生産品と異なるところかもしれません。
写真機でも50年以上前のモノが現役で活躍しているという話をよく耳にします。
当時の設計図を基に部品の供給が続けられれば、たとえ部品に寿命が来ても交換して
使い続けられるというわけです。
この時どういう「設計」をしていたかで、寿命が大きく左右されていると筆者は
考えます。
ただ、最近の写真機は電子部品の塊ですからなかなか壊れるところがないのも事実で
あると思います。しかし一方で電子部品が供給されなくなると直しようがなくなるのも
また事実であります。機械部品は工作機械などで作れますが、電子部品は製造ラインを
一旦外れるとなかなか代わりが利かなくなると言われております。
設計さんは設計時点で最高の性能を発揮させることはもちろんのこと、未来を見据えて
リニューアルがし易いように設計しておくことが美学であると思っております。
振り返って自分のしてきた仕事はどうか?と見直してみますと、
「誰だ、こんな設計をしたのは!」
と古い設計図を見ますと自分のハンコが押してあったりします(笑)
あまり目立たないところにちょっとした美学を求めるのが設計さんの楽しさでもあり、
苦しさでもあります。もちろん造る方々も気付かれないようなところに自分の思う所を
残してくださっているのが見て取れることがあります。
楽しい仕事ですよ。物造りって。
今回はこの辺で失礼します。
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